中南米の一部では、親しい間で使う2人称 tú の代わりに vos が使われ、vos で話すことを voseo と言います。一般的に、voseo 地域は、ラプラタ川流域に分布していると言われています。
歴史的背景を見てみると、この vos という代名詞のルーツは3世紀ごろのローマ帝国東西分裂後にさかのぼります。ご存知、スペイン語はローマ帝国で使われていた俗ラテン語から派生した言語ですが、そもそもラテン語には tú に相当する2人称ひとつしかありませんでした。ところが、分裂後、皇帝が二人存在することになり、これらの皇帝への複数形の2人称として使われるようになったのが vos です。その後、歴史的変遷のなかで、親しい間柄の人称として tú の代わりに vos が使われるようになった時期があり、この頃、スペインの新大陸進出が行われるようになりました。
その後、スペイン本国では tú が復活し、vos はアンダルシアの一部やカナリア諸島を除いて姿を消しますが、中南米の地域では、伝えられた当時の vos が残っているというわけです。中南米でもスペインと密接な関係を維持してきた地域では tú が使われますが、つながりの薄かった地域では vos の使用が顕著です。
vos の用例として、以下のような傾向があります。
代名詞としてのみ使用、活用は tú と同じ。
主格、呼格(呼びかけ)、前置詞形のみに使用し、与格、対格、所有格には te, tu を用いる
主格
与格(~に)
対格(~を)
所有格(~の)
前置詞形
vos
te
te
tu
vos
tú と異なる独自の活用形を持つ。
国や地域によって異なるため、一概には言えませんが、次のような例があります。
原形
tú
標準的な vos の活用
バリエーションA
バリエーションB
バリエーションC
hablar
hablas
hablás
hablái
habláis
hablái
comer
comes
comés
comís
coméis
coméi
vivir
vives
vivís
vivís
vivís
viví
ser
eres
sos
soi/erís
sois
soi
各国・地域の傾向
中南米における vos の使用状況には以下のような傾向が見られます。
国
傾向と特徴
Argentina
独自の活用を用いる(標準型)。 tú の使用は見られない。
Paraguay
独自の活用を用いる(標準型)。 tú の使用は見られない。
Uruguay
独自の活用を用いる(標準型)。 vos の活用で代名詞 tú を使用する例がある。
Guatemala
独自の活用を用いる。 同世代あるいは目上から目下への人称として使用。 外国人相手や正式な場での tú の使用もあるが、usted のほうが一般的。 男性同士での tú の使用は不適切。
Honduras
vos の使用が一般的(標準型)。 男性同士での tú の使用は不適切。
El Salvador
独自の活用を用いる(標準型)。 外国人相手や正式な場において、ていねい語としての tú の使用もある。 男性同士での tú の使用は不適切。