ただの翻訳ならAIでもできる?(その1)
Google翻訳に加えて、最近では、ChatGPTを使った翻訳など、AIを使った翻訳もすっかり一般的になってきました。「とりあえず、どんなことが書いてあるのか知りたい」とか、「社内の参考資料として使うだけ」という用途であれば、AI翻訳したものを人間がチェックするという方法で通用しそうな感じがします。
それを検証するためにも、ここでは実際に、AIを使った翻訳の品質について掘りさげてみたいと思います。
NMT と LLM
まず、一口にAI翻訳と言っても、大きく2つのタイプに分けられます。一つは、Neural Machine Translation (NMT)(「ニューラル機械翻訳」)、もう一つは、Large Language Models (LLM)(「大規模言語モデル」)という方法です。
技術的なことは(AIの専門家でないと理解できないので)置いておいて、一言で「どう違うのか」というと、ざっくりですが、以下のようにまとめることができます。
Neural Machine Translation (NMT):人間の翻訳者のやっていることを模倣する
それぞれの語やフレーズ間の関係を学習することで、人間の翻訳者が翻訳を行うときの頭脳の動きを模倣し、それを高速で処理することが目的です。NMT を利用しているサービスには、Google Translate(Google翻訳)、Microsoft Translator などがあります。
Large Language Models (LLM):脈絡にもとづいた自然な言語表現を作成する
翻訳そのものではなく、脈絡を理解したうえで、任意の言葉の次に続く言葉を予想することで、人間の言語表現に近い自然な文章を生成することを目的としています。LLM を利用しているサービスには、ChatGPT、Gemini などがあります。
実験してみると…
では、さっそく実験してみましょう。使うサービスは、Google翻訳と無料版のChatGPTです。
例題はこれです。
例題 1
たとえ先の見えない重苦しい道であっても、今歩いている道を歩くしかないときもある。何か月何年かかるかもわからず、果たして目的地に着くのかどうかもわからなくても黙々と歩くしかないときもある。しかし、その道を少しでも楽しく歩ける工夫はできる。
まず、Google翻訳です。これを貼り付けて、待つこと1秒もかかりません(この速さは素晴らしいですね!)。そして上がってきたのがこれです。
Example 1 (Google翻訳)
There are times when you have no choice but to walk the path you are currently on, even if the road ahead is oppressive and you cannot see what lies ahead. There are also times when you have no choice but to walk silently, not knowing how many months or years it will take, or whether you will ever reach your destination. However, there are ways to make walking that road a little more enjoyable.
次に、ChatGPTです。Google翻訳が「一瞬」なのに対して、こちらは、ちょっと時間がかかりますね。高速タイピングするのを待つような感覚がありますが、ほとんど気になりませんね。仕上がりはこれです。
Example 1 (ChatGPT)
Even when the road ahead feels heavy and uncertain, there are times when all you can do is keep walking the path you’re on. You may have no idea whether it will take months or years, or even whether you’ll ever reach your destination, yet still you must keep moving forward in silence. But even then, you can find ways to make the journey a little more pleasant.
いかがでしょう?
それほど複雑な内容ではないので、意味の取り違えなどもなさそうです。しかし、さすがに、両者ともめざしている目的が異なるので、アウトプットされてきたものも違いますね。大きな違いは
1.Google翻訳版は、「翻訳」をめざしているだけあって、原文の文章構造や表現レトリックなどを踏襲しようとしている
2.ChatGPT版は、「自然な言語表現」をめざしているだけあって、より翻訳先の言語として自然に表現しようとしている
ということが言えます。
もっと細かく見てみましょう。
1)「何が書いてあるか」的な翻訳であれば、両者ともとくに問題はない
2)「文章表現」としては、ChatGPTのほうがより自然で読みやすくこなれている感じがある
3)「重苦しい道」はGoogle翻訳のように「道自体が oppressive」というよりも、ChatGPTの feels heavy(重く感じる)のほうが(「詩」でもないかぎり)よりわかりやすい
4)ChatGPTでは、「先の見えない重苦しい道」の「先の見えない」を uncertain という1語に置きかえている→表面的な字義にとらわれていない
5)ChatGPTでは、最後の「道」の部分を journey という単語に置きかえてメリハリを出している
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ただ原文の「道」は、物理的な道というよりもむしろ、比ゆ的な「道」のことを言っているのですが、両者とも、それをどこまで理解しているのかは疑問です。おそらく、「あそこの道は整備されていない」といった意味の「道」ととらえている可能性は大いにあります。
また、翻訳ではなく、クリエイティブ・ライティングとしてみた場合、Google翻訳は「上手にできた英作文」レベルで、ChatGPTのほうがややマシですが、それでもまだ、実用レベルというには厳しいと思っています。
これはおまけですが、翻訳にもとづいたクリエイティブ・ライティング (Creative Writing Based on Translation: CWBT) でやってみましょう。あくまでも、一つの例ということでとらえてください。
Example 1 (CWBT)
Your path may feel heavy and gloomy. It may be even densely fogged. But that can be your only path, and you may have to keep walking. How many months or years may it require? That, you have no idea. Can you even reach the destination?—You don't know that, either. You can only keep going forward, stoically and resiliently. But remember, there is always a way to make that journey a little more enjoyable.
では、次の例題に行ってみましょう。
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(画像はイメージです。)
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